ご家庭内で何かあったお母さん。~立川心療内科マンガ

ここは桃井家の一室。照明は少し暗い。
テーブルには豪華な食事が並んでいるが、空気は重苦しい。

夫である太郎は、気まずそうに箸を動かした。
妻である忠子、旧姓、犬原忠子は、無表情でグラスに水を注いでいる。

「……あのさ、忠子」
「はい。お水、足しますか?」
「いや、水じゃなくて……。猿渡と雉山の件だ」

忠子はピクリともせず答える。

「ああ、おサルさんとキジさんのことですね」

「その呼び方やめろよ。……お前、二人に慰謝料請求したって本当か?」

「ええ。本日、内容証明が届いているはずです」

太郎は、思わず箸をガチャンと置く。

「やりすぎだろ! 俺が全部悪いんだ。彼女たちは関係ない!」

忠子は冷ややかに笑う。

「関係ありますよ。貴方は『家族』だと言って、私の生活費と同じ口座から、あの人たちにも、きびだんご……いえ、お手当を渡していたんですから」

一ヶ月前。

「たろちゃ~ん! 今月の『お団子代』ありがと~! ウッキー!ってくらい嬉しい!」

愛嬌のあるOL、猿渡愛は、太郎に抱きついた。

太郎はデレデレしながら言う。

「よしよし。愛ちゃんは賑やかで可愛いなぁ」

その次の日。

雉山麗華は、鋭い視線でスマホを見ながら、冷たく言い放つ。

「太郎さん、振込確認しました。でも今月少ないんじゃない? 私の羽を磨くエステ代、足りないわよ。ツツくわよ?」

「わ、わかったよ麗華ちゃん。君のその鋭い指摘がたまらないんだよなぁ」

時は再び今に戻る。

「……彼女たちは、俺の癒やしだったんだ。お前は家を守る『忠実な犬』、彼女たちは俺を楽しませる『愛嬌のあるサル』と、刺激をくれる『彩り鮮やかなキジ』……。俺にとっては、三人揃って完璧なチームだったんだよ!」

忠子は、静かに立ち上がり、太郎の皿を下げた。

「チーム? ……鬼退治にでも行くつもりでしたか?」

「なっ……」

「残念ながら、退治されたのは貴方のお財布です。慰謝料は、貴方が彼女たちに渡していたきびだんご、いえお手当の総額分、きっちり回収させていただきます」

「ま、待てよ忠子! 俺はこれからもお前を養うつもりだぞ! ずっと俺のそばで尻尾を振ってくれるんだろ!?」

忠子はその言葉に、キッチンから戻ってきた。

その手には、ドッグフードの袋……ではなく、離婚届。

「ワン」

「え?」

忠子は能面のような笑顔で話す。

「お手、おかわり、それからサイン。……これからは、ご自分で吠えてくださいね、太郎さん」

忠子は、離婚届をテーブルに叩きつける。

その鋭い眼光は、かつての従順な犬のものではなく、獲物を狩る狼のようだった。

(完)

………。
自分でも何だこれは、と思いつつも、そして心理学に一切無関係な状況に涙を流しつつも、ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。